電話リレーサービスが公共インフラになるまで

02:日本における電話リレーサービスの始まり

対象: すべての人
掲載日 : 2024年07月01日

目次

    民間企業における試み

    日本で初めて民間で電話リレーサービスが開始されたのは2002年12月でした。株式会社自立コムが2000年12月から試験運用を行い、その後、本格運用となりました。きこえない人からの発信のみが可能なサービスでしたが、文字によるリレーサービスを9:00から21:00まで年中無休で提供し、個人は3,000円/年、法人は10,000円/年で利用することができました。ただし、有料だったためか、利用者数は1年後で60名強にとどまり、事業継続困難でやむなく2004年3月にサービスは中止となってしまいました。その他にも、民間事業者による電話リレーサービスの試みはあったものの、いずれも継続困難を理由に数年で終了となりました。

    そのなかで、2004年4月、株式会社プラスヴォイスによる「代理電話サービス」がスタートしました。利用者はLINE、Skype、Facetime等を使って、手話又は文字チャットを用いた即時双方向のやりとりが可能な電話リレーサービスと、メールや FAXを利用して通訳オペレータが本人に代わり、用件を電話の相手先に伝えて解決する代理電話サービスの二種類から、自由に選択することができます。1回毎(上限時間15分)に支払うか、使い放題の場合は月当たり一定額を支払うことで利用することができます。

    モデルプロジェクトの開始

    これらの企業に続き、日本財団も2011年より電話リレーサービスを開始します。きっかけとなったのは東日本大震災でした。日本財団はボートレースの収益金の一部をもとに海に関係する事業の他、子ども支援、障害者支援、災害復興支援などを行っている団体で、2011年の東日本大震災でも様々な復興支援を行いました。そのひとつとして、被害が大きかった宮城、岩手、福島の3県の聴覚障害者を対象に、遠隔情報・コミュニケーション支援がありました。当時、iPadを手に入るだけ購入し、役所を中心に28か所に設置して遠隔通訳を行ったり、メール、FAX、LINE、Skypeなど様々な方法で連絡を受け付けて、代理電話や電話リレーサービスを行ったりしていました。2年間で302名、約5,700回利用され、そのなかで最も利用が多かったのが即時双方向でやりとりできる電話リレーサービスでした。

    当時、事業を担当していた当財団専務理事の石井靖乃は、海外における障害者支援にも長く携わっており、米国のギャロ―デット大学を訪問した際に、電話リレーサービスがごく普通に使われている様子を見て、電話リレーサービスの存在を知っていたこと、そしてこの被災地支援での経験から、災害時に限らず普段から電話リレーサービスのような仕組みを必要としている人たちが全国にたくさんいるに違いないという思いから、2013年9月に対象地域を全国に拡げ、モデルプロジェクトとして電話リレーサービスをスタートさせます。

    サービス開始当初は東京都にある日本財団ビルの小さな会議室で、ごく少人数でスタートしました。通訳は民間企業と聴覚障害者情報提供施設の6事業者に委託したものの、まだシステム化されていなかったため、LINEを使う事業者もあれば、Skypeを使う事業者もあり、各事業者によって手段も様々でした。共通していたことは、利用者と通訳オペレータとのやりとりはテレビ電話・文字チャットを使い、通訳オペレータと電話の相手先は固定電話や携帯電話を使うといった、とても原始的な方法だったことです。利用者数も、開始当初は500名を上限として募集し、定員に達したら、間をあけて再度500名募集する、といった様に徐々に登録者を募りながら事業を進めました。

    システム導入の試み、そしてサポートセンター開設へ

    利用者数や利用件数の増加に伴い、2015年にはシステムの導入を目指します。まず日本国内で対応できる会社を探しましたが、見当たりませんでした。そこで海外に目を向け、スウェーデン、フランス、ハンガリー、アメリカなどのシステムを比較検討した結果、フランス製のdjanah(ジャナー)を採用しました。このシステムの可用性について、1年ほどかけて検証や修正を重ねながら、2016年にdjanahを使った電話リレーサービスの提供を開始しました。以下をはじめとするdjanahが有していた機能は、今振り返っても非常に優秀だと考えます。

    • きこえないが自分の声で話せる人のために、音声を相手先に届けることができる機能
    • オペレータの稼働状況をリアルタイムに確認できる機能
    • 待ち行列に並ぶことができる機能
    • きこえる人からの着信も普通の電話と同じように受けられる機能
    • 留守電機能
    • 登録申請者をCSVファイルにて一括登録できる機能

    これほどまでに優秀な機能を備えていたものの、フランス製ということもあってか、日本で利用すると、通話の途中で切れてしまうことが多く、通話が成り立たないことが多く発生していました。電話としては致命的な問題です。修正を重ねていっても、今後の継続的な利用は困難であると判断し、わずか1年ほどでdjanahの利用を終了しました。

    djanah導入と同時期に、カスタマーセンター(当時サポートセンター)も開設し、利用者からのお問い合わせに対応する体制を整えました。開設当初、1年目の問い合わせ件数は平均すると月80件ほどで、機器を含む使用方法に関する問い合わせが多くありました。また、当時はすでに株式会社プラスヴォイスで「代理電話サービス」を提供していたこともあり、なぜ他社のサービスでできることが電話リレーサービスではできないのかといった問い合わせも多くありました。今よりももっと「代理電話」と「電話リレーサービス」の違いについて理解は拡がっていなかったのです。当時のサポートセンタースタッフは、こういった正しい理解を広めるための説明に苦労したものでした。

    次回のコラムでは、電話リレーサービスで助かった命、そして制度化に向けての動きについてお届けします。

    (業務企画調整チームリーダー 親松紗知)


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